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幻の谷 [創作]

私が立つのは深い谷
視界を遮る深い霧

霧のベールに浮かぶのは
過去の風景
過ぎ去りし日々に抱いた愛しき思い

現実と幻の境界はかすみ
すべての輪郭が
霧の中に溶けていく

あぁこのままこの谷ですべてを忘れて眠りたい
眠りの精の歌う子守唄を聞きながら





今まで味方だと思っていた人が敵に見えてくる。心地よく感じられた環境が煩わしくなってくる。危険な兆候だ。
こうなった原因は分かっているが、わかっているからと言ってそこから抜け出せるわけではない。また、実際のところそういった状況から抜け出したいと思っていない。今までの自分と今の自分、その間に境界線があるわけじゃない。しかし、今自分がしばらく前とは別の見方で物事を見ていることぐらいは自覚している。

-あの本のせいだ-

あの日以来、現実と幻想の境界線はあやふやになってしまった。今まで信じたものを今までのように盲目的に信用する気が起こらない。

-あれもまたまやかしなのではないか-

そんな疑念がどこからともなく忍び込む。

心理状態をコントロールすることなど結局のところできはしない。気づいた時にはもう別の所に立ってしまっていると言うのが正直なところだ。落とし穴にはまって気づいていたら穴の底に立っている、と言う所か。

一体何が真理なのだろう?世界観に真理も誤りもないのかもしれない。あるのはそれが命につながるか、死につながるか、それだけなのだ。

何もかも非常に虚しい気がしてならない。

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